伝説のピアニストが岩国に!
難しいパッセージを素晴らしく演奏するよりも、
一流作曲家の素晴らしい音楽を届けること、この事がもっとも重要なのです。
(ウラディーミル・アシュケナージ/本人インタビュー Classic FMより)
2019年5月、シンフォニア岩国では「Viva!Music!音の祭典」として18日(土)、19日(日)の2日間を通して「演奏を聴く貴重な機会」「日本初来日!」の2本立ての公演を行います。今回は18日の公演に出演する、81歳になるウラディーミル・アシュケナージに焦点を当てて、ピアニストとしての魅力をお伝えします。
文責:事業マネージャー 増田龍一
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ウラディーミル・アシュケナージ、その名を聞いてピアニストをイメージする方はどれくらいいるのでしょうか。ここ20年以上はメインの活動となっている指揮者のイメージが強い方も多いかもしれません。
しかし、私たちの世代にとっては、アシュケナージは、
ポリーニ、アルゲリッチとならんで20世紀を代表
するピアニストのひとりなのです。
アシュケナージの名が世界中に知れ渡るきっかけとなったのは、やはり1955年 第5回ショパン国際ピアノコンクールの出来事でした。18歳で出場した彼の演奏は正確無比の超特急テンポで、審査員、ワルシャワの聴衆の度肝を抜いたと言われています。最終的には、ポーランド出身のアダム・ハラシェヴィッチが優勝に輝き第2位となりますが、これを不服とした審査員の一人、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリが降板したというのは、あまりにも有名な話です。ちなみにこのコンクールには、日本人初の入賞者となった田中希代子さんも出場しています。
翌1956年にはエリザベート王妃国際音楽コンクール1位。1962年にはチャイコフスキー国際音楽コンクールに出場し、ジョン・オグドン(1937-1989)と優勝を分け合いました。
諸説ありますが、一般的にショパン国際ピアノコンクール、エリザベート王妃国際音楽コンクール、チャイコフスキー国際音楽コンクールは三大音楽コンクールと言われています。
アシュケナージはこれらのコンクール全てに入賞している数少ないピアニストでもあるのです。
アシュケナージのピアノの特徴は、いわゆる音楽大学などでお手本とされるような演奏と言われていました。超絶技巧の持ち主ではないものの、圧倒的に広いレパートリーを持ち、1つ1つの作品に全精力を注いで、その作品の魅力を最大限に活かそうとする姿勢はまさに「ピアニストの手本」といえるでしょう。
しかし実際に演奏を見たときに衝撃を受けた事もあります。ピアノは鍵盤楽器なのですが、仕組みは打楽器です。彼は指のレガートをあまり使わずに、音のレガートを、つまり音をきれいにつないでいくのです。
通常は指をなめらかに動かしながら、音をつないでいくものですが、指を高く上げて動かしながらレガートを表現する。このテクニカルな部分は、おそらく当時の音楽大学生には真似のできないことだったと思います。
アシュケナージの演奏は、70年代の鋭い感性による非の打ち所のない演奏から、温厚な万人が受けるような演奏に変化しているのを感じている方もいらっしゃるでしょう。しかしながら、この演奏スタイルこそが年齢を重ねた巨匠がたどり着いた境地なのかもしれません。
指揮者としての活動が主となってきた昨今、ピアノ演奏を聴く機会は限られてきています。
80歳を超えた今、もしかすると岩国でピアノ演奏を聴くことができるのは最後なのかもと思わずにいられません。息子ヴォフカとの親子デュオ。
伝説のピアニストの雄姿を是非ご覧いただければと思います。